AIに任せてよい財務業務と、任せてはいけない業務|線引きの基準
AIを業務に入れるとき、現場で起きがちなのは全部任せるか一切使わないかの二択です。どちらも実務的ではありません。必要なのは、業務ごとに線を引くことかと思います。
線を引く手がかりは、ひとつで足りそうです。間違ったときに、後から気づけるかどうか。
あとで気づけるかどうかで分ける
AIは必ず間違えます。問題は間違えること自体ではなく、間違いに気づかないまま次の工程へ流れることです。だから見るべきは精度そのものより、誤りが後の工程で見つかるかどうかになります。
| 区分 | 条件 |
|---|---|
| 任せてよい | 誤りが自動で見つかる |
| 確認を挟む | 人が見れば気づける |
| 任せない | 誤りが表に出ない、または出たときには手遅れ |
任せてよい業務
後の工程でチェックが効く作業です。
- 請求書や領収書の読み取り。金額を誤れば、突合や残高照合の段階で合わなくなる
- 銀行明細との突合。合わなければ差額として残るので、誤りが必ず表に出る
- 定型の仕訳起票。試算表と各種の照合で見つかる
- 長文資料の要約と論点の洗い出し。原文がすぐ横にあるので、必要なら遡って確認できる
- 資料のドラフト作成。人が読んで直す前提の成果物
共通しているのは、誤ってもどこかで数字が合わなくなる、あるいは元の資料に戻れることです。
人の確認を挟む業務
誤りが自動では見つからないものの、その分野を知っている人が見れば気づけるものです。
- 財務分析のコメント作成。数字は正しくても解釈が的外れなことがある
- 予算と実績の差異分析。原因の推定は、現場の事情を知らないと外れる
- 社外に出す資料の文面。表現ひとつで約束したことになる箇所がある
- 契約書のレビュー補助。論点の洗い出しには使えるが、結論を委ねる相手ではない
任せない業務
見積りと引当の決定。前提の置き方で金額が動きます。前提を選ぶこと自体が判断です。
開示するかどうかの判断。書くか書かないかの決定は、間違えた向きによって損害の大きさがまるで違います。
税務ポジションの決定。誤りが表に出るのは数年後の調査時で、そのときには修正の余地がありません。
機密情報を外部サービスに渡す処理。これは精度の問題ではなく、渡した時点で戻せない問題です。
最後の点だけは基準が違います。ほかは「間違えたら困る」ですが、これは「間違えていなくても困る」種類の話です。未公表の決算数値、顧客情報、契約条件を、社内の取り扱い規程を確認せずに外部のサービスへ入力するのは、精度と無関係に避けたい行為かと思います。
入れていく順番
実際に業務へ入れるなら、上の表の順番どおりに進めるのが安全そうです。
- 誤りが自動で見つかる作業から始める。ここは失敗しても回復できる
- 効果を測る。速くなったのか、確認の手間が増えて相殺されたのかを見る
- 確認を挟む領域に広げる。このとき、誰が確認するのかを人単位で決める
- 任せない領域は明文化して残す。曖昧にしておくと、いつのまにか線を越える
4番目が抜けがちです。使える範囲が広がるほど、線を引いていない部分へ流れ込みます。「ここは人が決める」と書いて残しておくことが、結局いちばん効くのではないかと思います。
まとめ
任せてよいかどうかは、精度というより、誤りに後から気づけるかどうかで決まりそうです。突合や照合で自動的に見つかる作業は任せてよい。人が見れば気づける作業は確認を挟む。誤りが表に出ない判断業務と、渡した時点で取り返しがつかない情報の取り扱いは任せない。
もっとも、この線引きも固定ではないかと思います。チェックの仕組みが整えば、任せられる範囲はその分だけ広がっていきます。
よくある質問
Q. AIに任せてよい財務業務はどれですか?
誤りが後の工程で自動的に見つかる作業です。請求書や領収書の読み取り、銀行明細との突合、定型の仕訳起票は、金額を誤れば残高が合わなくなるため必ず表に出ます。長文資料の要約や論点の洗い出し、資料のドラフト作成も、原文に戻って確認できるため任せやすい部類かと思います。
Q. AIに任せてはいけない業務は何ですか?
会計処理の最終判断、見積りと引当の決定、開示するかどうかの判断、税務ポジションの決定です。いずれも基準の幅の中で決める行為で、決めた結果に責任が伴います。加えて、未公表の決算数値や顧客情報を外部サービスへ渡す処理は、精度とは別の理由で避けたいところです。渡した時点で取り返しがつきません。
Q. AIに任せてよいかどうかの手がかりはありますか?
精度そのものより、誤りに後から気づけるかどうかで見ると整理しやすいかと思います。突合や照合で自動的に見つかるなら任せてよい。人が見れば気づけるなら確認を挟む。誤りが表に出ない、あるいは出たときには手遅れなら任せない。この3段階で線が引けます。
Q. AIを業務に導入するとき、どこから始めるとよいですか?
誤りが自動で見つかる作業からが安全そうです。失敗しても回復できるからです。次に効果を測り、速くなったのか確認の手間で相殺されたのかを見ます。そのうえで人の確認を挟む領域に広げ、確認者を人単位で決めます。最後に、任せない領域を明文化して残しておくと、線を引いていない部分へ業務が流れ込みにくくなります。
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