経理の仕事はAIでなくなるのか|CFOとして見た、消える作業と残る判断
「経理の仕事はAIでなくなりますか」。ここ数年、よく聞くようになった質問です。
先に結論を書くと、なくなるのは仕事そのものではなく、作業の部分かと思います。ただ、その作業が経理の業務時間の多くを占めていたのは事実なので、「何も変わらない」と言うのも違う気がします。どこが減ってどこが残るのかを、業務単位で分けてみます。
すでに減っている作業
置き換わりが早いのは、答えが1つに決まる作業です。判断の幅がないので、機械に渡しやすい。
| 作業 | 置き換わりやすさ |
|---|---|
| 領収書・請求書の読み取り入力 | 非常に高い |
| 銀行明細と帳簿の突合 | 非常に高い |
| 定型の仕訳起票 | 高い |
| 経費精算のチェック | 高い |
| 月次資料のフォーマット作成 | 高い |
この領域は、AI以前から自動化が進んでいた部分でもあります。AIが加えたのは、フォーマットが揃っていない書類でも読めるようになったことかと思います。これまでは「決まった形式なら自動化できる」だったものが、「形式がバラバラでも大体読める」に変わりました。実務で効いてくるのは、ここです。
とはいえ、入力作業がすべて消えたという話は、実際にはあまり聞きません。極端に崩れた書類や、紙のまま回ってくる書類は今も残っているようです。
減っていない仕事
一方で、ほとんど手つかずの領域があります。共通しているのは、答えが1つに決まらないことです。
1. 基準を決めること
この費用は資産計上か、期間費用か。この売上はいつ認識するのか。引当はいくら積むのか。これらは処理ではなく判断です。会計基準は幅を持って書かれていて、その幅の中でどこに置くかを決めるのは人の仕事として残ります。AIは選択肢と根拠を並べるところまでは速くなりましたが、決めた結果の責任は引き受けません。
2. 異常に気づくこと
数字が例年と違うとき、それがビジネスの変化なのか、処理の誤りなのか、あるいは意図的なものなのかを見分ける作業です。AIは「例年と違う」までは検知できます。ただ、なぜ違うのかは現場で何が起きているかを知らないと判断できません。この情報は帳簿の外にあります。
3. 説明すること
監査法人に、税務当局に、取締役会に、投資家に。数字がなぜその形になったのかを説明し、質問に耐える作業です。ここは相手が人である限り残ります。しかも説明する人には、その数字を自分で理解している必要があります。
起きているのは、時間配分の移動
経理部門の人数が半分になった、という話は実際にはあまり聞きません。起きているのは、同じ人が別のことに時間を使うようになる変化ではないかと思います。
これは楽になる話ではなさそうです。入力作業は大変ですが、慣れれば確実にこなせます。判断は慣れても難しいままです。負荷の総量が減るというより、負荷の種類が変わると考えた方が実態に近いのかもしれません。
価値が上がりそうな能力
- 会計基準を根拠まで遡って読む力。処理を覚えているだけでは、基準の幅の中で判断できない
- 事業を理解している力。数字の異常が事業の変化なのか誤りなのかは、事業を知らないと切り分けられない
- 説明する力。同じ数字でも、相手が何を心配しているかに応じて説明の順番を変えられるかどうかで、伝わり方が変わる
- AIの出力を疑える力。実務ではこれがいちばん効きそう。それらしい形で間違った答えが返ってきたときに気づけるかどうかは、結局その分野を自分で理解しているかで決まる
キャリアとしてどう見えるか
「経理はやめた方がいいですか」と聞かれることもあります。ただ、置き換わっているのは作業の側で、判断の側はむしろ人手が足りていないようにも見えます。危ういのは職種そのものより、「入力が速いこと」を自分の強みに置いている状態の方かもしれません。
もっとも、この見方が全ての職場に当てはまるとは限りません。定型処理の比率が高い現場ほど影響は大きく、そうでない現場ではほとんど変化を感じないという声も聞きます。
まとめ
AIが消しているのは、経理の仕事のうち答えが決まっている部分です。決まっていない部分、つまり基準の中でどこに置くかを決め、異常に気づき、説明する部分は残ります。むしろ作業から解放された分、そちらに使う時間が増えていく。今のところ、そういう動き方をしているように見えます。
よくある質問
Q. 経理の仕事はAIでなくなりますか?
なくなるのは仕事そのものではなく、作業の部分かと思います。領収書や請求書の読み取り入力、銀行明細と帳簿の突合、定型の仕訳起票のように答えが1つに決まる作業は急速に置き換わっています。一方で、会計基準の幅の中でどこに置くかを決める判断、数字の異常が事業の変化か誤りかを見分ける作業、監査法人や投資家に説明する仕事は残ります。
Q. AIに置き換わりにくい経理の仕事は何ですか?
答えが1つに決まらない仕事です。具体的には、資産計上か期間費用かといった会計処理の判断、引当額の決定、数字の異常が事業の変化によるものか処理の誤りかを切り分ける作業、そして監査法人や税務当局や取締役会への説明です。判断の根拠を示し、その結果の責任を負う部分は人に残ります。
Q. これから経理として何を身につけるとよいですか?
会計基準を根拠まで遡って読む力、事業そのものを理解する力、相手に応じて説明を組み立てる力、そしてAIの出力を疑える力かと思います。特に最後の点は実務で効きそうです。それらしい形で間違った答えが返ってきたときに気づけるかどうかは、結局その分野を自分で理解しているかで決まるからです。
Q. AIの導入で経理の人数は減りますか?
人数が半分になったという話は、実際にはあまり聞きません。起きているのは時間配分の移動のようです。入力と照合に8割、分析と判断に2割だった配分が逆転していく方向かと思います。人が減るというより、一人あたりが見る範囲が広がり、求められる仕事の質が上がると考えた方が実態に近そうです。
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