ホーム › AI時代に生き残るファイナンス 学習コラム › コーポレートファイナンスの本と講座の選び方

コーポレートファイナンスの本と講座の選び方|独学者のための教材ガイド

2026年8月14日 · 潮田 豊幸(World Finance Edu)
著者:潮田 豊幸。運用資産 US$125B の不動産プライベートエクイティでグローバル経営企画責任者を務めた実務家。現在はシンガポールでフラクショナルCFO、エンジェル投資、そして Mentogram School of Finance の Program Director 兼 Founding Partner としてコーポレートファイナンス教育を手がけています。米国公認会計士(USCPA)、INSEAD Global Executive MBA。 経歴・登壇・審査員の実績 ›

コーポレートファイナンスを独学しようとして、まず教材選びで止まる人は多いです。書店に行けば分厚い教科書から図解の入門書まで並んでいて、どれも良さそうに見える。とりあえず評判の一冊を買ってみたものの、50ページで止まったまま本棚に置いてある。そういう状態から抜け出したい、というのがこの記事の想定読者です。

結論から言えば、教材選びの失敗はほとんどが「レベルの取り違え」で起きています。難しすぎる本を選んだのではなく、いま自分が答えを知りたい問いに対して、そもそも種類の違う本を選んでいる。この記事では、レベル別の教材の選び方、本で学べることと学べないこと、そしてオンライン講座を使うべきタイミングを整理します。学ぶ順番そのものについてはコーポレートファイナンスの独学ロードマップで扱っています。

教材選びで最初に決めるのは「目的」

本を選ぶ前に決めておきたいのは、どこまで到達したいのかです。ここが曖昧なまま定番書を買うと、必要のない章に時間を取られます。実務でよくある到達点は、だいたい次の3つに分かれます。

この3つは、必要な教材がまったく違います。1つめは図解の入門書で足ります。2つめは演習のある本と表計算ソフトが要ります。3つめは、本だけでは届きません。理由は後述します。

レベル別:本の選び方

コーポレートファイナンスの本は、大きく3層に分かれます。層をまたいで背伸びするより、いまの層を1冊やり切るほうが早く進みます。

層本のタイプ向いている人選ぶときの目印
入門図解中心の解説書。200ページ前後、数式は最小限用語と全体像をつかみたい人NPV(正味現在価値)やDCF法(割引キャッシュフロー法)が、数式より先に言葉で説明されている
中級章末に演習問題のある教科書。企業金融の標準テキスト自分で計算できるようになりたい人設例の数字が本文中にあり、手元で再現できる
実務企業価値評価の専門書、モデリングの解説書実際に評価やモデルを作る人前提の置き方や調整項目の議論に紙数を割いている

入門書で気をつけたいのは、わかりやすさと引き換えに前提が省かれている点です。たとえば割引率の話は、入門書では「だいたい何%」で済まされます。それ自体は悪いことではなく、最初はそれで十分です。ただ、実務で数字を出す段階になると、その1%の置き方が結論を変えます。詳しくはWACC(加重平均資本コスト)の求め方と実務の相場感で扱っています。

中級の教科書は分厚く、通読を目標にすると高い確率で挫折します。おすすめは、目次を見て自分の目的に関係する章だけを先に読むやり方です。企業価値評価が目的なら、資本構成や配当政策の章は後回しでかまいません。教科書は読み物ではなく参照先として使うと、急に扱いやすくなります。

本で学べること、本では学べないこと

本が得意なのは、定義と論理です。NPV(正味現在価値)がなぜ足し算できるのか、IRR(内部収益率)がどんなときに壊れるのか。こうした「なぜ」は、良い本を読むのが最短です。NPVとIRRの違いと使い分けのような論点は、本や記事で理解できます。

一方、本だけでは身につきにくいものが3つあります。

本では埋まりにくい3つのギャップ
① 手を動かす感覚:計算式を読んで理解することと、白紙の表計算ソフトに自分で組むことのあいだには、はっきりした段差があります。
② 前提の置き方:実務で一番時間を使うのは計算ではなく、成長率や割引率をいくつにするかの判断です。ここは正解が書けないため、本の記述は薄くなりがちです。
③ 説明の順番:同じ結論でも、どの順で示すかで通り方が変わります。これは他人の説明を見て覚える部分です。

①は自分で埋められます。本の設例を読むだけで済ませず、同じ数字を表計算ソフトに入力して再現する。この一手間があるかどうかで、定着度がまったく違います。DCF法(割引キャッシュフロー法)であれば、5年分の予測と継続価値を自分で組んでみるのが最初の練習になります。手順はDCF法とはで整理しています。

オンライン講座の使いどころ

講座と本は、どちらが優れているというものではなく、それぞれ役割が異なります。学習段階と目的に合わせて選ぶことが大切です。

状況向いている教材理由
全体像をまだ理解していない短時間の講座、または入門書学ぶ順序を理解すると、その後の読書を進めやすい
用語の意味を調べたい本、記事自分のペースで検索・再読できる
表計算ソフトの操作を身につけたい画面で操作を見せる講座作業の順番を実際の画面で確認できる
本で挫折を繰り返している講座で一周してから本に戻る知っている話が増えると、同じ本が急に読めるようになる

特に講座が役立つのは、学ぶべき内容の全体像をまだつかめていない場合です。教科書を読み進められない原因は、難易度だけでなく、各章の関係や学ぶ順序が分からないことにもあります。数時間の講座で全体を確認してから同じ本を読むと、自分に必要な章を判断しやすくなります。

逆に、講座を何本も受けるだけで手を動かさない状態は、費用がかさむわりに前に進みません。講座は入口を作るもので、定着させるのは自分の演習です。

独学の進め方:4週間の型

教材を買っただけで終わらせないために、期間と成果物を先に決めておくと続きます。ひとつの型を挙げます。

4週目の演習は、本を読むだけでは絶対に得られない経験になります。前提を置いた瞬間に、自分がどこを理解していないかがはっきりするからです。なお、この演習はあくまで学習目的であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。

まとめ

よくある質問

Q. コーポレートファイナンスの本はどう選べばよいですか?

本を選ぶ前に、どこまで到達したいのかを決めるのが先です。用語がわかればよいのか、自分で計算できるようになりたいのか、実務で使うのかで選ぶ本が変わります。本は入門・中級・実務の3層に分かれるので、層をまたいで背伸びするより、いまの層を1冊やり切るほうが早く進みます。中級の教科書は通読せず、目的に関係する章から参照先として使うのが現実的です。

Q. 本とオンライン講座はどう使い分けますか?

講座と本は、どちらが優れているというものではなく、役割が異なります。全体像をつかめていない段階では、短時間の講座か入門書で学ぶ順序を理解すると、その後の読書を進めやすくなります。用語の意味を調べたいときは、自分のペースで検索・再読できる本や記事が向いています。表計算ソフトの操作を身につけたい場合は、実際の画面を見ながら学べる講座が役立ちます。

Q. 本だけでは学べないことは何ですか?

3つあります。手を動かす感覚、前提の置き方、説明の順番です。計算式を読んで理解することと、白紙の表計算ソフトに自分で組めることは別物です。本に載っている設例を自分で再現するだけでも大きく違います。

本で得た知識を、企業ケースでつなげる

GYOSEKI × World Finance Eduのオンライン講座では、架空の不動産会社を通じて、NPV・IRR・WACC、財務モデル、ROE改善、資本政策、株式分析を一つの流れで学びます。個別テーマを解説する本とは異なり、知識を判断に使う順序を体験できます。

講座の詳細を見る

関連記事

潮田豊幸
潮田 豊幸(Toyoyuki Ushioda)
World Finance Edu 代表(シンガポール)。
X(旧Twitter) · note · LinkedIn · Substack