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WACCの目安は何%?割引率の求め方と業種別相場を実務解説

2026年8月5日公開 · 2026年9月20日更新 · 潮田 豊幸(World Finance Edu)
著者:潮田 豊幸。運用資産 US$125B のグローバル企業でFP&A責任者を務め、複数の国と事業を横断する企業価値評価や投資判断に携わってきました。現在はシンガポールでCFO、フラクショナルCFO、コーポレートファイナンス教育に取り組んでいます。米国公認会計士(USCPA)、INSEAD Global Executive MBA。 経歴・登壇・審査員の実績 ›

WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)は、企業価値評価で使う割引率です。教科書には計算式が載っていますが、実務でつまずくのはそこではありません。「で、結局何%を入れればいいのか」という一点です。

この記事では、WACCの計算式だけでなく、計算に使う各数値を実務でどう決めるか、業種ごとの目安はどの程度か、そしてWACCが1%変わると企業価値にどれほど影響するかを解説します。

WACCの計算式

WACC = 株主資本コスト × 株式の比率 + 負債コスト × (1 − 実効税率) × 負債の比率

会社は株主と債権者の両方からお金を集めています。株主が期待するリターンと、銀行など債権者が求める金利を、それぞれの調達比率で加重平均したものがWACCです。会社全体として「最低限これだけは稼がないと資金の出し手に報いられない」という水準、と考えるとイメージしやすくなります。

ここで比率に使うのは簿価ではなく時価です。上場企業なら株式時価総額を使います。負債コストに (1 − 実効税率) を掛けるのは、支払利息が損金になって税金を減らすためです。これを節税効果(タックスシールド)と呼びます。

株主資本コストの求め方:CAPMの3つのパラメータ

実務で難しいのは株主資本コストです。株主は「利回り何%でお願いします」と言ってくれないので、市場データから推定します。標準的な道具がCAPM(Capital Asset Pricing Model、資本資産評価モデル)です。

株主資本コスト = リスクフリーレート + β(ベータ)× 株式リスクプレミアム

それぞれ、実務では次のように置くことが多いです。

パラメータ実務でよく使う置き方注意点
リスクフリーレート10年国債利回り。評価日時点の水準か、直近数か月の平均金利が動いた局面では、どの日付を使ったかを必ず記録する
株式リスクプレミアムおおむね5〜7%。調査機関の公表値や社内の統一前提を使う案件ごとに変えると比較可能性が失われる。会社として固定するのが実務
β(ベータ)類似上場企業のβを負債の影響を除いて平均し、評価対象の資本構成で組み直す個社の実測βは振れが大きい。非上場企業なら類似企業からの推定が基本
サイズプレミアム小規模企業には1〜3%程度を上乗せすることがある使うなら根拠と一貫性を持つ。恣意的な調整に見えやすい項目

この4つを積み上げると、日本の上場企業の株主資本コストはおおむね6〜10%あたりに収まります。負債を混ぜて加重平均すると、WACCはそれより低い水準になります。

β(ベータ)の求め方とアンレバード化

CAPMの3つの要素のうち、実務で最も手間がかかるのがβです。上場企業であれば株価データから直接計算できますが、そのβには会社の資本構成による影響も含まれています。借入の多い会社では、事業そのもののリスクに財務リスクが加わるため、βが高くなります。

そこで実務では、いったん財務リスクを抜いた事業だけのβ(アンレバードβ)に戻してから、評価対象の資本構成で組み直します。

手順やること
類似企業の選定事業内容の近い上場企業を5〜10社
観測βの取得各社の対市場βを5年月次などで取得
アンレバード化βU = βL ÷ {1 + (1 − t) × D/E}
事業βを決める各社のβUの中央値をとる
リレバーβL = βU × {1 + (1 − t) × 対象会社のD/E}

tは実効税率、D/Eは有利子負債と株式時価総額の比率です。平均ではなく中央値をとるのは、1社の異常値に引きずられないためです。

この計算で結果を大きく左右するのが、類似企業の選び方です。実務上、判断の余地が最も大きい部分でもあります。同じ会社を評価していても、比較対象として選ぶ企業が違えば、βUが0.7になることも1.1になることもあります。そのため、各社を選んだ理由を説明できるようにしておくことが重要です。

業種別のWACCの目安

細かい計算に入る前に、WACCのおおよその範囲を知っておくと、計算ミスに気づきやすくなります。以下は日本企業を想定した目安です。実際の数値は、金利水準や各社の財務状況によって変わります。

業種のタイプWACCの目安背景
電力・鉄道・インフラ3〜5%収益が安定し、負債を多く使える
食品・医薬・生活必需品5〜7%景気変動の影響を受けにくい
製造業(一般)6〜8%景気変動の影響を受け、設備投資の負担も大きい
IT・サービス・半導体8〜11%業績の振れが大きく、負債を使いにくい
スタートアップ15〜30%超WACCではなく投資家の要求リターンで議論される領域

計算結果がこのレンジから大きく外れたら、まず疑うべきは前提の入力ミスです。βの取り違え、負債比率に簿価を使ってしまった、税率が実効税率になっていない。この3つが定番です。

1%の違いが、企業価値をどれだけ動かすか

WACCの前提を慎重に検討するのは、そのわずかな違いが企業価値を大きく変えるからです。毎年100億円のフリーキャッシュフローを生み、永続的に年1%成長する会社について、割引率だけを変えて評価すると次のようになります。

WACC企業価値6%のときとの差
6%2,000億円基準
7%1,667億円−17%
8%1,429億円−29%
9%1,250億円−38%

WACCが1%変わるだけで、企業価値は2割近く変動します。事業計画を細かく作り込んでも、割引率の前提が1%違えば、計算結果への影響はそれを上回ることがあります。そのため実務では、単一のWACCから算出した企業価値だけを結論とせず、たとえば7〜9%の範囲で感応度表を作り、企業価値の幅を確認したうえで判断します。この考え方はDCF法とは?初心者にもわかりやすく解説でも触れています。

非上場企業のWACCをどう置くか

非上場企業には株価がないので、βも株式時価総額も直接は取れません。それでも評価は必要になるので、実務では次のように置き換えます。

取れないもの置き換え方
β類似上場企業のアンレバードβを、対象会社の資本構成でリレバー
株式時価総額(E)簿価、または類似企業の平均的なD/Eを目標資本構成として使用
負債コスト実際の借入金利、または同程度の信用力の社債利回り

加えて、非上場企業や小規模企業にはサイズプレミアムを上乗せするのが一般的です。規模が小さいほど倒産確率も流動性リスクも高いという実証があるためで、数%を株主資本コストに加算します。上乗せ幅は根拠にするデータソースで変わるので、どのデータを使ったかは明示しておく必要があります。

その結果、非上場企業のWACCは、同業の上場企業より高くなる傾向があります。ただし、サイズプレミアムは企業価値への影響が大きい一方で、何%を上乗せするかについて明確な正解はありません。そのため、買い手と売り手の見解が分かれやすい項目です。

実務で迷ったときの決め方

1. 社内で1つに固定する

投資判断に使うハードルレートは、案件ごとに再計算するより、全社で共通の水準を決めて年1回見直すほうがうまく回ります。案件ごとに変更できると、承認したい案件だけWACCを低く設定する余地が生まれるからです。ハードルレートと投資判断の関係はNPVとIRRの違いと使い分けで詳しく整理しています。

2. リスクは割引率ではなくキャッシュフローで調整する

「この事業はリスクが高いからWACCに3%上乗せする」という調整は、一見すると合理的ですが、3%とする根拠を説明するのが難しくなります。事業固有のリスクは、割引率にまとめて上乗せするのではなく、売上や費用などのキャッシュフロー予測に複数のシナリオを設けて反映するほうが、前提が明確になります。フリーキャッシュフローの作り方はフリーキャッシュフロー(FCF)とはを参照してください。

3. 出した数字を第三者に説明できる形で残す

WACCは、監査法人、投資家、買い手の財務担当者から確認されることの多い項目です。どの日付のリスクフリーレートを使ったか、どの類似企業からβを取得したか、なぜその資本構成を採用したか。この3点を記録しておけば、後から前提を確認したり、第三者へ説明したりするときにスムーズです。

よくある誤解

まとめ

よくある質問

Q. βのアンレバード化とは何ですか?

株価から算出したβには、事業リスクだけでなく、会社の資本構成による財務リスクも反映されています。そこで βU = βL ÷ {1 + (1 − t) × D/E} を使って財務リスクの影響を除き、事業リスクを示すβUを求めます。その後、評価対象会社の資本構成を使って βL = βU × {1 + (1 − t) × 対象会社のD/E} と再計算します。類似企業5〜10社のβUは、異常値の影響を抑えるため、平均値ではなく中央値を使うのが一般的です。

Q. 非上場企業のWACCはどう計算しますか?

βは類似上場企業のアンレバードβを対象会社の資本構成でリレバーして使い、株式時価総額は簿価か類似企業の平均的なD/Eを目標資本構成として代用します。負債コストは実際の借入金利か同程度の信用力の社債利回りを使います。加えて規模の小さい会社にはサイズプレミアムを数%上乗せするのが一般的で、結果として同業の上場企業よりWACCは高くなることが多いです。上乗せ幅は使うデータソースで変わるので、根拠は明示しておく必要があります。

Q. WACCは何%に置けばよいですか?

業種で目安が変わります。電力・鉄道・インフラは3%から5%、食品・医薬・生活必需品は5%から7%、一般の製造業は6%から8%、IT・サービス・半導体は8%から11%が目安です。日本の上場企業の株主資本コストはおおむね6%から10%に収まり、負債を混ぜて加重平均したWACCはそれより低くなります。計算結果がこのレンジから大きく外れたら、まず前提の入力ミスを疑ってください。

Q. WACCの計算式を教えてください。

WACC = 株主資本コスト × 株式の比率 + 負債コスト × (1 − 実効税率) × 負債の比率 です。比率に使うのは簿価ではなく時価で、上場企業なら株式時価総額を使います。負債コストに (1 − 実効税率) を掛けるのは、支払利息が損金になって税金を減らすためで、これを節税効果(タックスシールド)と呼びます。

Q. 株主資本コストはどう求めますか?

CAPM(資本資産評価モデル)を使い、株主資本コスト = リスクフリーレート + β × 株式リスクプレミアム で推定します。リスクフリーレートは10年国債利回り、株式リスクプレミアムはおおむね5%から7%、βは類似上場企業のβを負債の影響を除いて平均し評価対象の資本構成で組み直します。小規模企業には1%から3%程度のサイズプレミアムを上乗せすることがあります。

Q. WACCの計算でよくある間違いは何ですか?

定番は3つです。βの取り違え、負債比率に時価ではなく簿価を使ってしまうこと、税率が実効税率になっていないことです。結果が業種の目安レンジから大きく外れたときは、この3点から確認してください。

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潮田豊幸
潮田 豊幸(Toyoyuki Ushioda)
World Finance Edu 代表(シンガポール)。
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