ROICとは|ROEとの違いと「本当に稼ぐ力」の測り方
ROIC(Return On Invested Capital、投下資本利益率)は、事業に投じたお金がどれだけ効率よく利益を生んでいるかを測る指標です。ここ数年、日本の統合報告書や中期経営計画でこの言葉を見かける機会が急に増えました。
背景にあるのは、長く使われてきたROE(Return On Equity、自己資本利益率)への不満です。ROEは事業の実力とは関係のない要因で簡単に上下してしまいます。この記事では、ROICの計算式、ROEとの決定的な違い、そして事業部単位でROICをどう経営に使うかを整理します。
ROICの計算式
NOPAT(Net Operating Profit After Tax、税引後営業利益) = 営業利益 × (1 − 実効税率)
分子のNOPAT(税引後営業利益)は、支払利息を引く前の利益です。ここがポイントで、借入の多い少ないに影響されない利益を使っています。分母の投下資本は、事業のために調達した資金の総額です。定義には2つの見方があり、原則としてどちらも同じ金額になります。
| 見る向き | 計算のしかた | 意味 |
|---|---|---|
| 調達サイド | 有利子負債 + 自己資本 | お金をどこから集めたか |
| 運用サイド | 運転資本 + 固定資産 | 集めたお金を何に使っているか |
貸借対照表(バランスシート)のどちら側から数えるかの違いです。事業部ごとにROICを出すときは、その事業が使っている運転資本と固定資産を積み上げる運用サイドのほうが実務的です。決算書の各表のつながりは決算書の読み方|初心者が最初に見るべき3つのポイントで整理しています。
ROEはレバレッジで化粧できる
ROE(自己資本利益率)の弱点を、数字で見るのが一番早いです。まったく同じ事業を営む3社を用意します。投下資本はいずれも1,000億円、営業利益は100億円、実効税率30%、借入金利は2%とします。事業の中身は3社とも完全に同一で、違うのは資金の集め方だけです。
| A社(無借金) | B社(負債50%) | C社(負債70%) | |
|---|---|---|---|
| 有利子負債 / 自己資本 | 0 / 1,000 | 500 / 500 | 700 / 300 |
| 営業利益 | 100 | 100 | 100 |
| 支払利息 | 0 | 10 | 14 |
| 当期純利益 | 70.0 | 63.0 | 60.2 |
| ROE | 7.0% | 12.6% | 20.1% |
| ROIC | 7.0% | 7.0% | 7.0% |
ROEは7.0%から20.1%まで3倍近く開きました。しかし3社の事業は1円も変わっていません。増えたのは借入だけです。一方でROICは3社とも7.0%で並びます。これがROICが「本当に稼ぐ力」と呼ばれる理由です。
もちろん、レバレッジをかけたC社が悪いという話ではありません。負債は株式より資本コストが低く、節税効果もあるので、適度な活用はむしろ合理的です。問題は、ROEだけを見ていると事業が良くなったのか、借入を増やしただけなのかを区別できない点にあります。
ROICは2つに分解して読む
ROICが低いとき、原因は「利益率が薄い」か「資産を使いすぎている」かのどちらかです。この分解をすると、打ち手が具体的になります。
- マージンが低い場合:価格政策、製品ミックス、固定費構造の見直し。
- 回転率が低い場合:在庫や売上債権の圧縮、遊休資産の売却、設備投資の抑制。
現場に「ROICを上げろ」と言っても動きません。「在庫日数を10日縮めろ」なら動きます。ROICを分解して現場の指標に翻訳することが、資本効率を経営に落とし込む作業の中心です。運転資本がキャッシュに与える影響はフリーキャッシュフロー(FCF)とはでも扱っています。
ROICとWACCのスプレッドが価値を生む
ROICは単独では意味を持ちません。比べる相手がいて初めて評価できます。その相手がWACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)、つまり資金の調達コストです。
ROICがWACCを上回っていれば、事業は資金の出し手が求める以上のリターンを生んでいます。下回っていれば、会計上は黒字でも価値を毀損しています。日本企業に「黒字なのに株価が上がらない」会社が多いのは、この差がゼロ近辺、あるいはマイナスだからです。WACCの水準感はWACC(割引率)の求め方と実務の相場感にまとめています。
事業別に並べると、経営会議の議論が変わります。
| 事業 | ROIC | WACC | スプレッド | 示唆 |
|---|---|---|---|---|
| A事業 | 15% | 8% | +7% | 投下資本を積極的に増やす |
| B事業 | 9% | 8% | +1% | 維持しつつ回転率を改善 |
| C事業 | 4% | 8% | −4% | 再建計画か、撤退・売却の検討 |
全社合計のROICが9%だとしても、中身はこの3つの合成です。全社の数字だけを見ていると、A事業の稼ぎがC事業の損失を埋めている構造が見えません。事業ポートフォリオの議論は、この分解から始まります。
実務で気をつける4点
1. 単年のROICで判断しない
大型の設備投資をした翌年は、分母だけが先に膨らんでROICは必ず下がります。投資が回収期に入るまでの数年をまとめて見る必要があります。単年で切ると、投資をしない事業部が最も評価される仕組みになってしまいます。
2. 高いROICが必ずしも良いとは限らない
減価償却が進んで簿価がほぼゼロの古い設備で回している事業は、分母が小さいためROICが見かけ上とても高く出ます。更新投資を先送りしているだけ、という可能性を疑ってください。
3. のれんを含めるかを決めておく
買収でできたのれんを投下資本に含めるかどうかで、ROICは大きく変わります。含めれば「買収価格に見合っているか」、除けば「事業そのものの効率」を測ることになります。どちらも正しいので、目的に応じて選び、社内で定義を統一することが重要です。
4. 余剰現金の扱いを揃える
事業運営に不要な現金は投下資本から除くのが一般的です。除かないと、現金を厚く持つ会社ほどROICが低く見えてしまいます。ここも会社としての定義を一度決めて、毎期変えないことが実務の鉄則です。
ROEとROICの整理
| ROE(自己資本利益率) | ROIC(投下資本利益率) | |
|---|---|---|
| 分子 | 当期純利益 | NOPAT(税引後営業利益) |
| 分母 | 自己資本 | 有利子負債 + 自己資本 |
| 見ている人 | 株主 | 株主と債権者の両方 |
| 借入の影響 | 受ける(増やすと上がる) | 受けない |
| 事業別の算出 | 難しい | できる |
| 比べる相手 | 株主資本コスト | WACC(加重平均資本コスト) |
どちらか一方が優れているわけではありません。株主から見た最終的な成績表はROEであり、そこに至る事業の実力を測るのがROICです。両方を並べて、その差がどこから来ているのかを説明できる状態が理想です。企業価値との関係は企業価値評価(バリュエーション)とはもあわせてご覧ください。
まとめ
- ROIC(投下資本利益率)はNOPAT(税引後営業利益)を有利子負債と自己資本の合計で割った指標で、借入の多寡に影響されない。
- ROE(自己資本利益率)はレバレッジで上げられるため、事業が良くなったのかを区別できない。
- ROICはWACC(加重平均資本コスト)と比べて初めて意味を持つ。スプレッドがプラスかどうかが分岐点。
- 事業別ROICに分解すると、ポートフォリオの議論と現場の打ち手がつながる。
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