シンガポールで会社を作る手順|費用と日数、日本人がつまずく3点
シンガポールで会社を作ろうとして最初に驚くのは、登記そのものがあっけないことです。書類が揃っていれば ACRA(Accounting and Corporate Regulatory Authority、会計企業規制庁)の登録は同じ日に終わります。日本の法人設立に比べれば、かなり速い。
ただ、実際に事業を始められるまでの時間で見ると話が変わります。時間を食うのは登記ではなく、その前に決めておくことと、その後の法人口座です。この記事はその順番で整理します。
登記そのものは1日、事業開始までは数週間
全体の流れを、時間の感覚とあわせて並べてみます。
| 段階 | 目安 |
|---|---|
| 社名の予約 | 即日、審査が入ると数日 |
| 設立登記 | 書類が揃えば即日 |
| 会社秘書役・登録住所の手配 | 登記と同時 |
| 法人銀行口座の開設 | 2週間〜2ヶ月 |
| 消費税(GST)の登録 | 必要な場合、数週間 |
「設立に何日かかりますか」という質問への実務的な答えは、登記だけなら1日、事業を回せる状態までなら1ヶ月前後になります。口座が開くまでは入金も支払いもできないので、全体のスケジュールはここで決まってしまいます。
登記に必要なものと費用
最低限そろえる要素は5つです。
- 社名。既存の商号や商標とぶつかると差し戻される。特定の業種を思わせる語が入ると関係当局の照会が入り、数日から数週間かかることもある
- 事業内容のコード。シンガポール標準産業分類(SSIC)のコードを選ぶ。後から変更できるが、業種によっては別途ライセンスが必要
- 株主。1名から可能で、外国人100%出資も認められる
- 取締役。1名以上が「シンガポール居住者」である必要がある。日本人にとって最大の関門
- 払込資本金。最低 S$1 から設立可能
登記の実費は、社名予約が S$15、設立登録が S$300 で、合わせて S$315 です(2026年9月時点)。ただし初年度のコストはこれだけでは終わりません。
| 項目 | 性質 |
|---|---|
| ACRA 実費(社名 + 登記) | 一度きり S$315 |
| 会社秘書役(Company Secretary) | 年額、外部委託が一般的 |
| 登録住所(Registered Office) | 年額 |
| 記帳・年次申告・税務 | 年額、取引量で変動 |
会社秘書役は設立から6ヶ月以内に選任する義務があり、実務では設立代行と一緒に外部の事務所へ委託するのが一般的です。登録住所も必要で、平日の一定時間に対応できる住所であることが求められるため、自宅を使えるかどうかは条件次第になります。
日本人がつまずく3点
1. 居住取締役の要件
取締役のうち最低1名が、シンガポールに通常居住している必要があります。該当するのはシンガポール国民、永住権保持者、そして就労パスを持って現地に住んでいる人です。日本に住んだまま「シンガポール法人だけ持つ」ことはできません。
自分がまだパスを持っていない段階では、名義取締役(nominee director)を代行会社から立てるのが一般的な対応です。ただし年額のコストが続きますし、名義であっても取締役としての法的な責任は残る立場なので、誰に頼むかは安易に決めない方がよい部分かと思います。もっとも、代行会社によって関与の度合いや条件はかなり違うとも聞きますので、一律に語れるところではなさそうです。
2. 法人銀行口座が最大の関門
登記より口座開設の方がはるかに大変です。マネーロンダリング対策が厳しくなった結果、事業の実体について説明を求められます。事業内容、想定される取引相手の国、資金の出どころ、そして役員が実際にシンガポールにいるかどうか。オンラインだけで完結せず、対面の面談を求められることも珍しくありません。
準備しておくと通りやすいのは、事業計画の説明資料、想定顧客や契約の裏づけ、そして役員本人の居住実態かと思います。逆に「まだ何も決まっていないが、とりあえず箱だけ作った」状態は、いちばん通りにくいパターンのようです。
3. 会社を作っても就労ビザは自動的に付いてこない
ここは誤解が多いところです。会社を設立したことと、自分がシンガポールで働けることは別の話になります。自社で自分を雇うために就労パスを申請することになりますが、審査では給与水準、学歴と職歴、そして会社の実体が見られます。設立直後で売上も従業員もない会社が、いきなり創業者本人のパスを取れるとは限りません。
順番としては、すでに就労パスを持っている状態から会社を作る方が楽です。これから移る場合は、パスと設立のどちらを先に置くかを最初に決めておく必要があります。
設立前に決めておくと後が楽なこと
株主構成。後から動かすと株式の評価と譲渡の手続きが要ります。共同創業者がいるなら、持分と、それをどの期間で確定させるかは、登記前に合意しておく方が安全かと思います。
資本金の額。S$1 でも設立できますが、口座開設や取引先の審査、パス申請では会社の実体を見る材料のひとつになります。極端に小さい額だと説明を求められることもあるようです。
税金の面で押さえておくこと
法人税率は 17% です。加えて新設法人には数年間の減免制度があり、一定額までの所得に対して課税が軽くなります。売上が一定規模を超えると、消費税にあたる GST(Goods and Services Tax、物品サービス税)の登録義務が生じます。
日本の会社と大きく違うのは、キャピタルゲインへの課税が原則ない点と、受け取る配当に課税されない点です。この2つは、事業を売却する出口や、利益をどう戻すかの設計に効いてきます。設立の段階で細部まで詰める必要はありませんが、後から構造を変えるのはコストがかかるので、大きな方向だけは最初に意識しておく価値があるかと思います。
まとめ
シンガポールの会社設立は、手続きそのものは軽い部類です。難所は登記ではなく、居住取締役をどう満たすか、法人口座をどう通すか、就労パスとの順番をどう置くかの3点に集中します。逆に言えば、この3つが先に決まっていれば、残りは事務手続きとして進んでいきます。
よくある質問
Q. シンガポールの会社設立にかかる費用はいくらですか?
ACRA(会計企業規制庁)に払う実費は、社名予約が S$15、設立登録が S$300 で合計 S$315 です(2026年9月時点)。ただし初年度のコストはこれだけでは終わりません。会社秘書役の委託料、登録住所、記帳と年次申告の費用が年額で乗ります。居住取締役の要件を名義取締役で満たす場合は、その費用も続きます。
Q. 設立にはどれくらいの日数がかかりますか?
登記だけなら、書類が揃っていれば即日で完了します。ただし事業を回せる状態までを見ると、法人銀行口座の開設に2週間から2ヶ月かかるため、全体では1ヶ月前後を見ておくのが現実的かと思います。社名に審査が入る業種では、さらに数日から数週間が加わります。
Q. 日本に住んだままシンガポール法人を作れますか?
設立自体は可能ですが、取締役のうち最低1名がシンガポールに通常居住している必要があるため、自分ひとりの取締役では要件を満たせません。実務では代行会社の名義取締役を立てて満たすのが一般的です。ただし名義であっても取締役としての法的責任が伴う立場なので、依頼先は慎重に決める必要があります。
Q. 会社を作れば就労ビザは取れますか?
自動的には取れません。会社設立と就労パスの取得は別の審査です。自社で自分を雇う形で申請することになりますが、給与水準、学歴と職歴、そして会社の実体が見られます。設立直後で売上も従業員もない状態では通らないこともあるため、パスと設立のどちらを先に置くかは最初に決めておく必要があります。
シンガポールで事業と数字を見ている人へ
World Finance Edu はシンガポール拠点で、フラクショナルCFOとしてスタートアップや中堅企業のファイナンスを見ています。会社を作ったあとに必ず出てくる資金繰り、資本政策、投資家対応の話は、ファイナンスの学習コラムで扱っています。
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