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ターミナルバリューとは|DCF法で企業価値の大半を決める継続価値の求め方

2026年8月19日 · 潮田 豊幸(World Finance Edu)
著者:潮田 豊幸。運用資産 US$125B の不動産プライベートエクイティでグローバル経営企画責任者を務めた実務家。現在はシンガポールでフラクショナルCFO、エンジェル投資、そして Mentogram School of Finance の Program Director 兼 Founding Partner としてコーポレートファイナンス教育を手がけています。米国公認会計士(USCPA)、INSEAD Global Executive MBA。 経歴・登壇・審査員の実績 ›

DCF法(Discounted Cash Flow、割引キャッシュフロー法)のモデルを組んでみて、最後に出てくる「ターミナルバリュー」という項目で手が止まった経験はないでしょうか。5年分のキャッシュフローは丁寧に予想したのに、その先を一つの数字にまとめる段になると、途端に根拠が曖昧になります。

やっかいなのは、この曖昧な部分が答えの大半を決めてしまうことです。多くの案件で、企業価値の5割から7割、成長企業なら8割以上がターミナルバリュー側に乗ります。つまり最後の1行の置き方で、結論はいくらでも動きます。この記事では、ターミナルバリューとは何か、2つの計算方法をどう使い分けるか、そして実務でつまずきやすい点を整理します。

ターミナルバリューとは何か

ターミナルバリュー(継続価値、残存価値)とは、詳細に予測する期間(通常5年程度)の後も事業が生み出し続けるキャッシュフローを、予測最終年の時点でまとめて一つの価値にしたものです。企業は理屈のうえでは半永久的に続く前提なので、6年目以降を毎年予測する代わりに、ここでひとまとめにします。

DCF法の企業価値は、次の二つの要素から成り立ちます。

企業価値 = 予測期間のキャッシュフローの現在価値 + ターミナルバリューの現在価値

この構造自体はDCF法とは(初心者向け解説)で扱ったとおりです。実際にモデルを作ると、企業価値に占めるターミナルバリューの割合が大きいことが分かります。予測期間中の利益が少ない会社ほど、企業価値は予測期間より先のキャッシュフローに依存します。そのため、ターミナルバリューの前提を慎重に検討する必要があります。

2つの計算方法

ターミナルバリューの求め方は、実務では大きく2つです。両方を計算して、答えが近いかを確かめる使い方が基本になります。

方法考え方向いている場面
永久成長率法(ゴードン成長モデル)最終年のキャッシュフローが一定率で永久に伸び続けると仮定して割り戻す成熟事業、安定したインフラ・生活必需品
Exit倍率法(マルチプル法)予測最終年のEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)などに、類似会社の倍率を掛けるM&Aや投資回収の想定がある案件

永久成長率法の計算

永久成長率法では、次の式を使います。gは永久成長率、WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)は割引率です。

ターミナルバリュー = 最終年の翌年キャッシュフロー ÷ (WACC − g)
= 予測最終年キャッシュフロー × (1 + g) ÷ (WACC − g)

たとえば予測最終年のフリーキャッシュフローが10億円、WACCが8%、gを1%と置くと、ターミナルバリューは10 × 1.01 ÷ (0.08 − 0.01) ≒ 144億円です。これはあくまで予測最終年時点の価値なので、さらに現在価値へ割り引く必要があります。フリーキャッシュフロー(FCF)の読み方で触れたとおり、ここで使うキャッシュフローが正常な水準かどうかも結果に大きく影響します。

Exit倍率法の計算

Exit倍率法は、予測最終年のEBITDAに、市場で観察される倍率を掛けます。予測最終年EBITDAが15億円で、類似会社のEV/EBITDA(企業価値 ÷ EBITDA)が10倍なら、ターミナルバリューは150億円です。「その時点で売るとしたらいくらか」という発想なので、投資回収を意識する場面と相性がよい方法です。

最終年のキャッシュフローを正常化する

ターミナルバリューは、予測最終年のキャッシュフローを起点に計算します。そのため、最終年が例外的な状態であれば、その影響が将来価値全体に及びます。WACCや永続成長率だけでなく、起点となるキャッシュフローが定常的な水準かどうかも同じように重要です。

確認するのは主に3点です。

項目定常状態での姿
設備投資と減価償却おおむね同水準。大型投資の直前直後は乖離する
運転資本の増加売上成長に見合う水準。急拡大の年は過大になりがち
利益率一時的な特需や在庫評価益を含まない水準

たとえば予測最終年がたまたま大型設備投資の年に当たると、その年のフリーキャッシュフローは大きく凹みます。それを永久に続くものとして割り戻せば、ターミナルバリューは不当に小さく出ます。逆に投資を絞った年を最終年にすれば、価値は水増しされます。

実務では、最終年の数値をそのまま使わず、定常状態に調整した数値を別に作って起点にすることがあります。予測期間を1年か2年延長し、業績が安定した年を起点にする方法もあります。重要なのは、どちらの方法を選んだかではなく、その年を起点にした理由を説明できることです。

実務でつまずく落とし穴

ターミナルバリューは、前提をわずかに変えるだけで結論が大きく変わります。私がモデルをレビューするとき、最初に確認するのは次の3点です。

覚えておきたいのは、WACCの前提がターミナルバリューを通じて企業価値を大きく変えることです。WACC(加重平均資本コスト)の求め方で見たように、割引率が1%変わるだけで企業価値は2割前後変動します。その影響の多くは、ターミナルバリューの変化によるものです。

感度を確かめる習慣を持つ

ターミナルバリューを一つの数字で出して終わりにすると、その1点が正しいかのように見えてしまいます。実務で説得力を持たせるには、前提を振ったときに価値がどう動くかを表にして示すのが有効です。

永久成長率 gWACC 7%WACC 8%WACC 9%
0%143億円125億円111億円
1%168億円144億円126億円
2%204億円170億円146億円

同じ会社でも、前提の置き方だけでターミナルバリューは111億円から204億円まで動きます。この幅を隠さず見せることが、かえって数字への信頼につながります。単一の答えではなくレンジで語る姿勢は、スタートアップのように将来が読みにくい会社の評価でも同じで、その難しさはスタートアップの企業価値評価で詳しく整理しています。

企業価値の何割がターミナルバリューか

DCF法で価値を出すと、ターミナルバリューが全体の大半を占めます。5年予測ならおおむね6割から8割に落ち着くことが多いです。この比率自体は異常ではありません。5年より先の期間のほうが圧倒的に長いので、当然といえば当然です。

ただ、比率が極端に振れているときは前提を見直す合図になります。

比率読み方
おおむね60〜80%5年予測では標準的
90%超予測期間の利益が小さすぎるか、gが高すぎる可能性
50%未満予測期間が長いか、成長を手前に寄せすぎている可能性

比率が9割を超える場合、そのDCFは、遠い将来についての仮定に大きく依存しています。計算が精緻に見えても、企業価値の大半が検証しにくい前提から生じている状態です。予測期間を延ばし、明示的に予測できる期間の価値を増やせないか検討する必要があります。

もっとも、創業まもない会社や開発中のパイプラインを抱える会社では、比率が高くなるのがむしろ自然です。比率だけを見て機械的に良し悪しを決められるものでもありません。

まとめ

よくある質問

Q. 予測最終年のキャッシュフローはそのまま使ってよいですか?

ターミナルバリューは最終年のキャッシュフローを起点にするため、その年が例外的な状態だと、その影響が将来価値全体に及びます。設備投資と減価償却がおおむね同水準か、運転資本の増加が売上成長に見合っているか、利益率に一時的な特需が含まれていないかを確認します。最終年が大型設備投資の年であれば、フリーキャッシュフローが一時的に減り、ターミナルバリューが過小評価されます。定常状態に調整した数値を別に作るか、予測期間を1〜2年延長し、業績が安定した年を起点にする方法があります。

Q. ターミナルバリューは企業価値の何割になるのが普通ですか?

5年予測ならおおむね6割から8割です。5年より先の期間のほうが長いので、この比率自体は異常ではありません。90%を超える場合は予測期間の利益が小さすぎるかgが高すぎる可能性があり、50%未満なら予測期間が長いか成長を手前に寄せすぎている可能性があります。ただし創業まもない会社や開発中のパイプラインを抱える会社では比率が高くなるのが自然で、比率だけで良し悪しは決められません。

Q. 永久成長率(g)は何%に置くのが適切ですか?

目安として0%から2%程度です。式の分母が (WACC − g) なので、gをWACCに近づけると分母がゼロに近づき、ターミナルバリューが際限なく膨らみます。長期の経済成長率や物価上昇率の範囲に収めるのが安全で、一企業が経済全体より速く永久に成長し続ける想定は現実には成り立ちません。

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潮田豊幸
潮田 豊幸(Toyoyuki Ushioda)
World Finance Edu 代表(シンガポール)。
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